父と娘の週末トーク:娘と父のマジトーク(その6)「自分の国の言葉が下手なのに、外国語が上手くなるって、ありえなくない?」
英語が好きな娘。もしかして留学経験がある俺(父)の影響? と、あわい期待をしながら、「英語と留学」について話し合ってみました。
13歳の娘がクラスメイトから告白されたのをキッカケに、娘と父が割と本気で話し合うこの企画、第6回のテーマは「英語と留学」です。
中学1年生の娘が学校の授業で1番好きな科目が「英語」です。なぜ英語が好きなのか、英語が上手になってどうしたいのか、これまで話したことはありませんでした。留学経験のある父の背中を見て英語好きになったのだろうと期待をしながら理由を聞いてみたところ、期待に反して私は影響してなかったことが分かり、ほんの少しへこみました。
今回は、娘のリクエストで朝マックを食べながら話し合いました。
担任の先生が、外国人と英語で話しているサマがカッコイイ
父: 中学校の科目で、1番得意なのは英語だよね?
娘: うん。1番好きだし、得意な科目だよ。
父: 英語が好きになったのは、中学に入ってから? 小学生のころから?
娘: 小学校のときから好きだった。3年生のときベネッセの英会話やってたの覚えてる? そのときの先生に、いつも褒められたんだ。
父: そういえばやってたね。あれがきっかけ?
娘: うん。何を褒められたのかは覚えてないけど、褒められてうれしかったことは覚えている。自習をがんばった分だけご褒美がもらえる、といっても消しゴムやシールだけど、ってゲーム感覚で勉強できたから、夢中で集めてたね。それと、公文でも英語を4年生から始めて今も続いているんだけど、それも楽しい。
父: 楽しいんだ。授業とは何か違うの?
娘: 学校の授業は文法とか、文字を書くのがメインなの。でも公文はリスニングの活動がたくさんあって面白い。
父: いろんなことが実践できるのが、面白いというわけか。
娘: あとね、中学の担任の先生(英語担任)が外国人の先生と会話しているのを見て、「かっこいいなー、あんなふうになりたいな」って思ったのもある。
父: 塾とか英会話スクールでの経験がキッカケなのね。それ以外にはない?(お父さんの影響で……とか言ってほしいと願いつつ)
娘: ないよ(キッパリ)。
父: あ、そう……。
外国語が上手になりたいのなら、母国語をおろそかにしちゃダメ
父: 英語を上達させて、どれくらいのレベルになりたい?
娘: んー、海外旅行できるとかくらいじゃなくて、ペラペラがいいな。
父: 映画を字幕なしで理解できたり、難しい議論をアメリカ人とできるとか?
娘: そうそう、かっこいいね。
父: 今のレベルはどんなもん?
娘: 英検4級(中学校2年生レベル)を持ってる。来年1月に3級を受けるよ。3級は中学3年生卒業レベルだってさ。
父: 2学年も上か。難易度、高くない?
娘: 先生が「やってみな」って薦めてくれたから、やってみようかなって。何回受けたって構わないみたいだしね。そういえば、お父さんは1級を持ってるよね。
父: うん、(アメリカの)大学卒業して、帰国した夏に受けた。自信はあったけど、実は2回落ちたんだ。
娘: え! ペラペラなのに落ちたの?
父: 英検1級は、レベルがハンパなく高いんだよ。絶対使わないだろうっていう文語調の単語や表現とか、やたら細かい文法問題が出題されるんだ。変な話、アメリカ人の高校生ですら落ちるレベルって言われてたから。
娘: 勉強はどうやったの?
父: 専用の参考書を買って、1級用の対策をしたよ。アメリカの大学を卒業したくせに、英検1級を持っていない自分が許せなかったから、もう意地だったね(笑)。
娘: で、3度目で合格したんだ。
父: そう、丸1年かかった。ペーパーテスト以外にスピーキングもあって、当時(1995年ころ)は10人くらいの受験者と1人の外国人面接官が円を描くように座って、1人づつ指名されたら立ち上がって3分間くらい、与えられたテーマについてしゃべるんだ。
娘: 3分も? 長いね。テーマはそのとき与えられるの?
父: そう。だから事前準備はできないよ。言いたいことを瞬時に考えて、順序立てて構成してしゃべらないと、時間が余ったり、逆に足りなかったりする。
娘: 30秒とかで終わっちゃったら、不合格だろうね。
父: だね。英語能力だけじゃなくて、文章構成能力も求められるね。そういう意味では、日本語、つまり国語能力も備わっている必要があるわけだ。
娘: なるほど……! 英語が上手になるには、国語もできなくちゃいけないんだ。
父: 自分の国の言葉が下手なのに、外国語が上手くなるって、ありえなくない? 外国語ができるようになりたいなら、母国語をおろそかにしちゃダメってことだね。
娘: あー、何か分かる……塾に国語のM先生って人がいるんだけど、オーストラリアに住んだことがあって、英語がすぐできるようになったって聞いたことがある。
父: 日本語能力が普通の人より高かったから、英語の上達も速かったのかもね。
娘: 国語も頑張らなくっちゃ……。
父: そうだぞ。お父さん、この連載で始めていいこと言ったな(笑)。
英語はプラモデル、日本語は粘土
娘: 聞いた話なんだけど、英語って、外国語の中では簡単なほうなんでしょ?
父: 習得がって意味? そうだね、少なくとも、日本語よりは数段ラクだね。英語で「あなた」はyouだけど、日本語だと「あなた、キミ、オマエ、キサマ、てめえ、そなた、あんた、おたく」っていろいろでしょ。しかも、年齢や性別、時代でも変わるし。先輩後輩的な人間関係でも言葉選びって変化するでしょ。
娘: 外国人からしたら、使い分けがわけわかんないよね。
父: 丁寧語、尊敬語、謙譲語って、外国人が身に付けるには、そうとう努力しないとね。菓子>お菓子、茶>お茶にはなるけど、鉛筆>お鉛筆にはならない。使い方がケースバイケースで、複雑すぎる。
娘: 日本語って、もしかして世界でトップクラスの難しさじゃないの?
父: 世界で最も習得が難しい言語のトップ3は、たしかアラビア語、中国語、日本語だったはずだよ。
娘: 中国語もか。確かに、漢字の量がすごいもんね。
父 日本語は漢字以外に、平仮名、カタカナもあるね。漢字にも音読み訓読みがあって、その3つの組み合わせは無数にあるもんね。
娘: 英語ってアルファベットだけか……。何だか、英語って簡単そうに思えてきた(笑)。英語の先生も、「パターンさえ覚えれば、英語なんて楽勝だ」って話してたよ。
父: 英語はプラモデルみたいなもん。説明書通りにやれば、誰が作ってもそこそこ仕上がる。日本語は粘土かな。微妙な力加減で揉んで、自分なりに形作っていかなきゃいけないようなあいまいさがあるね。
パスパス! とヘイヘイ! で友達になれる
父: さっきペラペラになりたいって話してたけど、外国に行くチャンスがあったらどうよ? 留学とか。
娘: 留学って?
父: 外国の学校で勉強するってことね。
娘: 何も知らない土地で、1人ぼっちになるってことだから……何となく、怖い。
父: お父さん、それしたんだぞ。寮生活だったから、衣食住は心配なかったけど、校内はおろか、町内唯一の日本人だった。
娘: お母さんから聞いたけど、高校卒業してすぐアメリカに行ったんだよね?
父: うん、卒業の3日後かな。名古屋から新幹線で東京行って、成田に移動して、成田からノースウエスト航空のシカゴ経由、シーダーラピッズ行きでね。
娘: いまだに覚えているんだ。飛行機の中も全部英語?
父: もちろん。機長のアナウンスはチンプンカンプン、フライトアテンダントのしゃべりは半分も聞き取れない、入国しても右も左も分からない。
娘: どうやって学校と連絡とったの?
父: 公衆電話から何とか電話して、「ワタシ、ナカヤマデス。イマ、クウコウニ、ツキマシタ。ムカエニキテクダサイ。ヨロシク、オネガイシマス」なトーンで伝えたよ。
娘: へーーー、伝えられたんだ。
父: 一応、高校卒業レベルの英語力はあるからさ……。でも、相手の言ってることは、半分以上聞き取れなかったよ。本場の英語に接するのは、生まれて初めてだったんで。
娘: 友達とか、どうしたの? 英語が下手だと、できなくない?
父: 友達は意外にもすぐできちゃうよ。例えばスポーツやるとすぐ仲良くなれる。話せなくても、サッカーやバスケはできるでしょ?
娘: そっか。「パスパス! ヘイヘイ!」で、やれちゃうもんね。
父: 日本人以外の外国人留学生もいるしさ。似た者同士だと、話も合うよね。それに、年齢だって近いんだから。
娘: ふーん、友達作りで苦労はしなかったんだ。
父: 貝のように黙りこくっていない限り、自然に増えていくよ。サオリは、もし行けるとしたらどの国に行ってみたい?
娘: そりゃ、アメリカ?
父: イギリス、オーストラリアも英語だよ?
娘: 外国の知識がないから、わかんない。英語ならやっぱアメリカじゃないのってくらいで、こだわりはない。
父: 勉強してみたいことって思い付く? まだ想像もできないだろうから、妄想レベルで構わないけど。
娘: いやー、まだ全然……。
父: 今の興味の範囲で思い付くとしたら? 柴犬や美術が好きでしょ?
娘: そういうことなら、動物飼育かな。美術も好きだから、そういうことが勉強できたら、楽しいのかな。
父: 例えば、映画とかエンタメ系ジャンルの学校もあるね。
娘: 『モンスターズ・ユニバーシティ』みたいなアニメのキャラクターデザインを作りたいな。そういうことの学べる学校なら、興味あるなあ。
“デオキシリボ核酸”を英語で何と言う?
娘: 英語そのものは好きなんだけど、留学ってまだ正直なとこ、現実味がない……。
父: 留学する、しないなんて、中学1年生には現実味がないよね。現実性はいったん置いておいて、留学(あるいは海外生活)の期待と不安って、思い当たる?
娘: 期待でいうと……、日本じゃ学べないことが学べるのが一番。景色も食べ物も全然違うんだろうね。
父: なんせ土地が広大だもんね。ただ、アメリカの食事はそんなにグルメじゃないよ。ジャンキーでウマイけど。ステーキがデカすぎて笑っちゃったり、コーンフレークだけでどんだけ種類あるんだって、毎日が驚きだよ。
娘: いろんな国の友達もできたらいいな。
父: できるよ。サオリがアメリカに行ったら、周りから珍しがられて、いじられるよ。「うわっ、サオリって髪が超黒くね? 目玉も黒くてマジヤバイわ」みたいな。
娘: ふふふ、そうなんだ。
父: 逆に不安はない?
娘: 英語で勉強するんだから、周りのスピードについていけなくて、置いてけぼりにならないかな。数学なら英語力はあまり関係なさそうだけど、理科とか社会とか歴史って、想像しただけでめっちゃ苦労しそう。
父: 塩化ナトリウムや過酸化水素水を英語で覚えつつ、同時に化学式も理解しないといけない。
娘: ゲゲ、2重で大変……。
父: “溶媒”を英語では?“沸点”を英語では?“震源”を英語では?“デオキシリボ核酸”を英語では?(笑)
娘: うわ~、やめて~~。
父: 独立戦争や南北戦争だって、日本でならサラッとしか流さないことも、自国のアメリカ人は掘り下げて学ぶだろうしね。そういうのは、避けて通るわけにはいかない。
娘: …お父さん、それやったの?
父: やったよ。慣れるまでは、24時間テンパってたよ。スポーツとゴハンだけが楽しみだった。
娘: アメリカは食事が不健康だから、注意しないと太っちゃいそうだね。
父: 運動はしまくってたから太りはしなかったな。食事は、ピザ、パスタ、ハンバーガー、ラザニア、フライドチキン、マカロニチーズ、のローテーションだね。でもって、コーラが水代わり。
娘: 確実に太るわ……。でも、いろいろ聞いてても、不安よりは、期待の方が大きいかな。
父: 太る、で思い出したんだけど、病気が不安だったね。幸い、留学中の5年間は一度も病院のお世話にはならなかったんだけど、もし病気やケガで入院・手術をすることになっていたら、たとえ英語がペラペラでも、ものすごく心細くなるに違いなかったな。健康でいられて、本当によかった。
留学で得られるもの、失うもの
父: 日本の大学に行くのと、留学するのと比べて、留学で得られることってなんだろう?
娘: いろんな経験ができるね。日本ではできない勉強ができるっていうのもあるし、自立しそう。
父: そう思う?
娘: 自分から行動することで、積極性が身につくとか、人から指示されなくても自分で考えて動けるとか。外国で1人で生活するのって、そういうのが鍛えられるって思うね。
父: 基本、アメリカは個人の自由を尊重してくれるから、そういう意味でも自立せざるを得ないね。勉強する、しないも自由。誰と付き合うかも自由。健康管理も自由。どこに誰と住むかも自由。
娘: おおー、自由だらけなんだ。
父: サオリの生活面を注意したり、悪いことから引き止めたりしてくれる人はいないから、勝手に生きられて楽しいよ。そのかわり、結果は自分が責任を負うことになる。そのことで誰も責めることはできない怖さがあるね。
娘: ……(真顔で聞き入る)。
父: 反対に、留学することで失うものってあるかな?
娘: 何だろう?? お父さんは、何かあった?
父: (少し考えて)帰国すると、学生時代の友人には簡単には会えないんだよね。日本の大学に行ってた人は、同級生の付き合いが社会人になってからも続けられるけど、お父さんはそういうのが全くなくて、それが残念。友人を失ったわけじゃないけど、会えない事実はあるね。サオリは思い付く? ちょっと難しい質問かな?
娘: 自立し過ぎて、周囲に変に思われることがありそう。何でも自分で考えて判断しすぎたり、自分の意見をはっきり言い過ぎたりして、日本だと浮いちゃうことがあるかもしれない。
父: おお、なるほど。
娘: 「女のくせに、生意気だ」みたいな。
父: 確かに、そういうのはあるかもね。お父さんも思い付かなかったよ。
今回は、英語つながりから海外で生活すること、海外で学ぶことに膨らませてみましたが、明確にイメージすることが難しかったとのこと。いま取り組んでいること(英語)が、未来にどうつながっていくかは未知の領域のようです。
どう活用するかはともかく、勉強そのものが楽しい、もっとできるようになりたいという意欲さえあれば、今はそれでいいのかなと思います。一見、関連がなさそうに見える学習が、数年後、点と点となって結び付いて線になってくれれば、具体的な目標になてくれるのでしょう。そういう意味では、今回の最大の収穫は、「英語上達のためには、母国語もおろそかにしてはいけない」という意識を植え付けられたことでした。
次回は、「読書」について話し合ってみます。
[父と娘の週末トーク]
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