Konomi Yanagisawa
Essayist, Storage Adviser, Meguro-ku, Tokyo
2012.11.14
今回インタビューするのは、外苑にある「doinel」の築地さんに紹介してい ただいた、柳沢小実さん。柳沢さんは、エッセイスト、整理収納アドバイザーとして、雑誌を中心に幅広く活躍をされている。最近引越しをされたというお宅 は、閑静な住宅街にあるヴィンテージ・マンション。低層マンションで壁や扉などグレーや黒でまとめられていることもあり、とても落ち着いた印象。敷地内に たつ大きな木も、建物全体に和やかな雰囲気を漂わせている。そんな素敵なマンションに暮らす柳沢さんに、お仕事のことから日々の暮らしについていろいろと 伺った。
—はじめまして。お名前はもちろん伺ったことがあったのですが、お会いするのは初めてということで。柳沢さんのホームページ「ふらりふらり帖」でプ ロフィールを拝見したのですが、大学は日芸の写真家を卒業されているのですね?
もともと日芸の文芸に興味があって、写真科もあると知って、その時は決めきれなかった ので両方受けたら写真科に受かって。そして入ったら機械音痴だという事が判明して(笑)。もともとアナログな人間なので、男の子で得意な人に比べると、表 現力の幅が狭いなと途中で気付いてしまって。そこで向いていないんじゃないかと挫折して、大学1年のころから映画学科や文芸学科の人と一緒にフリーペー パーやミニコミなどを作ったりしていました。そういうノリの学校だったので。一緒にやるのは楽しかったのですが、2号、3号と出していくうちにだんだんみ んなの置かれている状況や時間にズレが生じてきて、結局一人でやったほうが早いのかなという感じになって。それで一人でやるようになったのが、今の仕事に つながる第一歩だったのかなと思います。
—フリーペーパーはどういうテーマで作られていたのですか?
音楽ですね。最初は日本のミュージシャンにインタビューしました。読んだ人が納得し て、読み物としてきちんとしたものが作りたい、彼ら(ミュージシャン)と同じ目線で話をしたいとすごく思っていて。自分的には硬派な気持ちでやっていまし た。そのフリーペーパーが細々と続いてミニコミになり、14号まではCD付きでHMVなどで置いてもらっていました。最後のほうは3,000〜4,000 部があっという間に売り切れてしまって。
—それは凄いですね。あの頃のHMVには、音楽のZINE的なものがたくさん売ってま したよね。
でも当時は素人でノウハウが無かったので増刷の仕方もわからなくて、売り切れたら終わ りでした。そして後半は1つのテーマに対して、みなさんにコラムを書いてもらって、物作りをする人に取材したりして、本の内容が暮らし寄りに変わっていき ました。自分のコラムは1号から「このごろのコノミ」というタイトルで続けていましたが(笑)。
ー大学を卒業されてからも続けていたのですか?
20代半ばまでやっていましたね。当時はなぜか出版社に就職するとか考えつかなくて。 でもどうしても本や雑誌を作りたかったので自分の中で何歳までと決めて、派遣会社で働きながら作っていました。まさにあの時代だからできたことですね。
—本の装丁やデザイン、暮らしにまつわるエッセイはどんな方にお願いしていたのです か?
音楽雑誌でやっているデザイナーの方にお願いしたり、エッセイは金剛地さんとか (笑)。当時、下北沢のインディーズシーンで活躍されていた人にお願いしていました。そして、ある新聞のインタビューを受けた後に、その方が他の出版社に 転職して、本を書いてみない?と声をかけてもらいました。最初の3冊を出版させてもらったところで、「そろそろ肩書きをつけてよ。」と言われてエッセイス トにしました。
最初の1冊はラッキーで出せることもなくはないと思っていたので、名乗っていいものだとは思っていなくて。3冊くらい出したところで、自分のやりたいこと もまだまだ沢山あったし、もう少し続けていけるかなと思ってその肩書きで始めることにしました。
—最初はどういう本を書かれたのですか?
最初のころは自分が話を聞いてみたい人にインタビューしたり、紹介したいものをまとめ た本です。今と比べると雑誌みたいな感じですよね。ラフも自分で書いていました。今見ると、荒削りで恥ずかしい(笑)。それから他の出版社からも何冊も出 させていただいていて、転機になったのはカメラマンの安彦さんとご一緒させていただいた、ピエ・ブックスから出版している「暮らしのアイディア帖」シリー ズです。ピエ・ブックスは今までそういう本をほとんど出していなかったので、どうしてもやりたいんです、とお願いして作らせてもらいました。
自分自身が結婚してわからないことだらけで、親も私たちも核家族で祖母の世代から聞けることがほとんど無かったりして。親からも何か教えてもらうわけでも なく結婚してしまって、自分たちが頑張らないと、台所仕事や生活の美しさなど、今までの古き良き伝統が伝わっていかないなという危機感を感じて。自分も知 りたいし、それを他の人とシェアするという本が作りたかったんです。
今は自分が読みたいもの、ありそうでないものを作りたいという気持ちが強くて、割とそういう視点で書いていますね。
—これだけシリーズ化(5冊も)したということは、共感した読者がたくさんいたという ことですよね。
あのシリーズはとても好評をいただきました。
—そう、フリーペーパーの話しに戻りますが、あの頃(1990年代中頃)は、いろいろ と面白いものがありましたよね。個人的に特に思い入れがあったのは、鎌倉のカフェ・ヴィヴモン・ディモンシュのフリーペーパーで、全部持っていますよ、い まだに(笑)。
わかります。サマーストアやシックスのフリーペーパーとか、本当に好きでした。今の自 分のベースになっていると思いますね。デザイン面でもすごく勉強になったし、今やっている事は違いますけど、ちょっと上の世代への憧れはありますね。
—あの時代ってそういう人が遠いようで近いところにいて。頑張れば手が届くんじゃない かと、ひたすら貪欲に吸収してました。音楽もすごく好きだったので、サバービアの橋本さんに憧れて(笑)、毎日のようにレコード屋に行ってましたし。今 は、ディモンシュの堀内さんやサバービアの橋本さんとも一緒にお酒を飲んだり、仕事をさせてもらうようになりましたが、いつまでも自分にとっては憧れの人 ですね。
私もいろいろと通っていました。ディスク・ユニオンやハイファイ・レコード・ストアと か(笑)。そこで仲良くなった方にもいろいろ助けてもらいました。
—(笑)。オタクですね。でも今の若い人たちって、そういう文化ってあまり無いですよ ね。
そんな気がしますね。あのころはお金も時間もかかりましたけど、すごく楽しかったし。
—今の仕事にも何らか繋がっているし、自分の生き方にも多大に影響しているなと思いま す。
あのころの貯金があるから今やっていけているのかという気がします。そういうのを通っ ていない人の強さもありますけどね。しなやかさとか。ピョーンと飛び越えちゃう人もいて、本当にうらやましいなと思います。
—うん、この話し尽きないですね(笑)。個人的にはもっと話したいですが、話しを戻し ましょう。エッセイストとして本を作りながら途中で整理収納アドバイザーの資格を習得したきっかけは?
中高生の頃、実家がわりと素敵な家に住んでいたときに全く片付けられなくて。当時の私 の部屋が暖炉の真上にある部屋で、煙突の大きさに合わせてクローゼットの奥行きが設定されていたので、使いにくい構造になっていたんです。学生だったし、 たいしたものも持っていないのに片付けられなくて、毎日親に怒られてしょんぼりしていて(笑)。でも引っ越したら片付けられるようになって、「これって何 だろう」と思って。自分が克服したことが、自分にとってだけの正解なのか、一般論に落とし込めるかが知りたくて、せっかくだから勉強してみようと思ったの がきっかけです。本当に自分のためだけに資格をとりました。
試験は理論がぎっしり載っているテキストがあって。2級は講義を受ければ誰でも取れる感じなんですけど、1級は試験も難しいし、研究発表もあるのでその資 料を作るために1ヶ月くらい仕事をセーブしました。それなりに真剣にやらないと落とされる資格です。研究内容は、「整理収納をすることで、居住空間を 10%増やす。」というのを実践して発表しました。
—資格をとる前と後では、考え方がかわったりしましたか?
基本的には確認作業といった感じだったのですが、勉強したからというよりは、その後結 果的に仕事になってきたので、自分のためだけじゃなくて、いろんな人にその情報を利用してほしいという気持ちが強まって、少しアプローチが変わったのかな と思います。その資格をとっても、どういう切り口で仕事をしていくかは人それぞれなんですよね。全部捨てちゃう人もいるし。お皿5枚くらいしかないとか (笑)。
—ストイックですね(笑)。もの好きの私には無理ですね。
そういう人結構多いんです。A型で几帳面で、家族も巻き込んで全部コントロールして。 私はそういう方とは正反対のタイプで、資格をとったことで、もの選びが自分にとって大事なんだと気付きました。ちゃんと選んでいればそうひどいことにはならない。
—柳沢さんのもの選びのポイントは?
食べ物や消耗品など、家に入ってすぐ出て行くものは割と気楽に選んでいますね。家具や 雑貨はモノによりますが、永く使うものに関しては吟味します。それがまず大きな違いかな。
—衝動買いしないんですか?
(家具をさして)これは衝動買いしたものなんですが、自分の中ではサイズ・高さ・奥行 きと、こういうものがここに入って、というイメージが既に決まっていたんです。面倒なお客かもしれないですけど、全部メジャーで測って、ここにファイルを 入れたいけど大丈夫かなとか、棚位置を変えられるかなどチェックするので、決めるまでは早くても吟味して買っています。
—漠然と「こういうものがほしい」というよりは、具体的なイメージがまずあってそれに 近いものがあったら買う、というような感じなんですね。
家具は特にそうかもしれません。住みながらキョロキョロと目を配っているというか。か と思えば、このダイニングテーブルは実家から借りてきたものなのですが、木の色やデザイン、テイストが決まらなくてまだ買えていないんです。長い旅です (笑)。
ーもの選びについて少し伺ったので、そのまま今お住まいのお宅のことについてお伺いで きればと思います。こちらのお宅を選ばれた理由は何だったんですか?
撮影が多いので、絶対に南向きの部屋が良いと思っていたんですね。それで図面を見て間 取りは気に入っていたのですが、北向きだったのでこの部屋は無いなと思いつつ、ずっと気にはなっていて。夜自転車でウロウロして見に来て、マンションの前 に木があるし、建物の色も可愛いなと。夫に一緒に見に行ってくれないかと頼んで、このルーバーと丸い扉に一目惚れしました。
—実は、このマンション、私も内見したことがあるんです(笑)。違う部屋でしたが、こ の丸い扉は一緒で。
こんな扉は新しい家には無いなと。ある意味、扉を借りるぐらいの気持ちでした(笑)。
—それで即決したんですか?
そうですね。数年探していたということもあったので、良いタイミングでした。あと、意 外と収納が付いているべき所について無かったり、クローゼットの中が変に仕切られていて使い辛いところにちょっと萌えてしまって(笑)。
—整理収納アドバイザーとしての血が騒いだと。
この物件、こんなに可愛いのに他の人じゃ絶対住めないな、仕方ない私が住むか、と (笑)。気難しいけど面白い人みたいな感じ。
—本の撮影はこの部屋(リビング)でやられているんですか?北向きは、直接日光は入ら ないけれど、その分光が安定していて撮影に向いていると聞いたことがあります。
物件を見に行くきっかけになったのが、まさに同じことをカメラマンさんに言われたから です。写真館や撮影スタジオをあえて北向きにする人もいると聞きました。
—それにしても、この窓、大きくて本当に気持ち良いですね。手前が少し高くなっていて ベンチとしても使えそうですね。
そうなんです。私のお気に入りの場所。この出窓で本を読んだりしながらごろごろしてい ます(笑)。気持ち良いですよ。
—寝転がっていると、外から見えませんかね(笑)?
寝転がっている時は見えてますね、きっと。でも今時出窓ってほとんど無いから贅沢です よね。あとは、フローリングの木目の細いピッチが好きで、床でもごろごろしています。
—昼寝している時間が好きなんですね。
とにかくごろごろ。パソコン打ちながらごろごろ(笑)。あとはキッチンが楽しいので、 前より料理をする時間が増えました。
—キッチンが独立していて使いやすそうですね。柳沢さんが今の生活の中で、影響を受け たものや参考にしていることはあったりしますか?
本や人ではあんまりないのかな。親が自分と似たライフスタイルだったので、その影響が 大きいのと、早いうちから海外旅行に行かせてもらったので外国の街並み、家や教会などの建物が染み付いている感じがします。
—海外はどちらに行かれていたのですか?特に好きな国などはあったりしますか?
ヨーロッパが中心ですね。北欧は7〜8回行きました。北欧の中ではスウェーデンが一番 好きですね。フランスもそうですけど、意外とみんなDIY意識が高いのが良いですよね。日本人って多少お金で解決する部分があると思うので(笑)。
私自身ペンキを塗ったり、椅子の張り地を替えてリメイクしたりしています。元々この椅子はスヴェンスクテンのゾウの布が貼ってあったんですけど、傷んでし まったので張り替えて。そうやって永く使っていくことで、既製品を自分のものにしていくというスタンスが好きです。
—私もここ数年、北欧にアンティークを買い付けに行っていて、北欧の人たちは、冬が長 いせいか家で過ごす時間を大切にしていますよね。元々あまり裕福な国では無かったというのもあるのでしょうけど、ものを大事に使い続ける文化が生活のベー スにあるので、壊れたら自分たちで修理する、部屋のテイストが変わったら合うように色を変えるということを普通にやっていますよね。
その本棚も、こういうものを入れたいからこういうサイズで作りたい、と軽く設計図を描 いて、近くの建設会社にお願いをして作ってもらいました。ペンキは自分で塗るからと言って。前住んでいた家は南向きだったのでオフホワイトで塗ったのです が、この部屋は北向きなので光の色が違うし、壁紙の色も前の家より白いんですよ。なので(本棚の)背面はそのまま残しつつ、手前は白を塗り替えました。そ ういう小さなことが個人的にはすごく大事な気がして。そういうことに皆さんが面白味を感じてくれたら嬉しいなと思います。ずっと一人でニヤニヤしながらペ ンキを塗ったりしています(笑)。夫にも手伝って欲しくないんです。
—わかります。ほんの少しの色味の違いで、お部屋の印象がずいぶんと変わりますよね。 それではお宅の中で、特に思い入れがあったりするものってありますか?
あの絵は、和田誠さんの原画で、「絵を持つって楽しいな」というのを知ってしまいまし た。震災後にチャリティーで描かれていたので、何枚か購入しました。
—まだ日本人の感覚だとアートというと何千万円の絵画みたいなイメージがあって、購入 して部屋に飾って楽しむことは敷居が高いと思われがちで。でもアートポスターでも気軽に飾ることでお部屋の雰囲気って変わるじゃないですか。少し頑張れ ば、手の届くアートもたくさんあるわけだし、ブランドのバッグや洋服を少し我慢して(笑)、アートを手に入れて部屋に飾る楽しみをイデーも少しずつ提案し ていきたいと思っているんです。
写真を飾るっていいですよね。イデーの北欧写真展にも行きましたが、すごく良いなと思 いました。あとは山の棚が自慢です(笑)。この媒体的にどうなのかなというのがありますけど。
—男気系で良いですね(笑)。これも柳沢さんのライフスタイルなわけですから全く問題 ありません。この山の棚、本当に充実してますね。
本当に自分が「どうだ!」と思っているものは今まであまり撮ってもらえなかったりしま すが(笑)。あとはこのライオンのポスターも好きです。フランスの国際博覧会のもので。セレスティーノ・ピアッティというスイスのグラフィックデザイナー で、絵本も出しているそうです。ポスターとしてのコンディションは良くないんですが、彼の絵が好きなので購入しました。
—このライオン、可愛いですね。北欧もそうですが、欧米人に動物を描かせたら、敵いま せんよね。あとこの食器はどちらのですか?アラビアのロゴが筆記体、珍しいですね。
エステリ・トムラがデザインしたアラビア社のですね。これはカップ&ソーサーのソー サーだけなんですけど、華奢な感じがすごく好きです。
—ちょっとリンドベリっぽい感じもしますね。アラビアというとラインが太いイメージで すが、これは繊細な佇まいが良いですね。
これは宝物です。あとは、あんまり収集癖はないはずだったのですが、今はオールドバカ ラばかり集めています。
—お気に入りの品を少しずつ揃えていくのは、楽しいですよね。しかも日々の生活の中 で、大事に普段使いすることで、豊かな時間が生まれると思います。今後、お宅で手を加えたいところはありますか?
植物を増やしたいですね。あとはクッションカバーを縫ったり。パッチワークでベッドカ バーも作りたい。生地を買ってくるとしばらく置いておいて、布合わせが、正方形がいいのか長方形が良いのか考えます。
—それでは次に住んでみたいところは、具体的にありますか?
日本だと難しいかもしれないけど、石造りの教会のような建物、あとは四角い建物に住ん でみたいです。
あとは、L字型の平屋もいいですね。光の入りかたが部屋によって変わる気がして。やっぱり家って明るいところもあれば暗いところもあって、光と影があるの が楽しいと思います。
—最後に、今後のご予定などありましたら教えてください。
来年23冊目の本が出ます。テーマは「ものえらび」。きれいなものだけでなく、道具と して使いやすいものをこういう理由だからこれ、という視点で作りたいですね。これから撮影なのですが、だいたい家で行っています。
終始、和やかにインタビューに答えてくれた柳沢さん。初対面ながら世代も近いこともあ り、音楽の話しから趣味の話しまで、本当に楽しいインタビューでした。休みの日は、旦那さまと山に登ったり、ボルダリングをされたり、アクティブな部分と ころも意外な一面で魅力的。柳沢さんの今後のますますのご活躍に期待したいと思います。
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柳沢 小実
1975年東京生まれ。日本大学芸術学部写真科卒業。エッセイスト、整理収納アドバイザー。暮らしにまつわる著書多数。ファッションと美味しいものが好き で、収納好きが高じて、整理収納アドバイザー1級の資格を所得。手間をかけずにすっきり見える収納法を日々研究中。著書「暮らしのアイディア帖」シリーズ (ピエ・ブックス)をはじめ多数。
http://www.furarifurari.com