地球探査船の冒険
第1節:地球は硬いか、軟らかいか
豆腐の上にパチンコの球を置いたら、どうなるでしょう。
球は、自分の重さで豆腐の中に沈んでいってしまうはずです。
では、大きな鉄の球を地球の上に置いたら、どうなるでしょう。
球の大きさが十メートルとか、百メートルとか、といった球ならば、地面が少しへこむかも知れませんが、もちろん、それ以上のことは起こりません。
しかし球がずっと大きなものならば、どうでしょう。その球は、自分の重さで、どんどん地球の中にめり込んで行ってしまうのです。
どのくらい大きな球ならばこうなるでしょう。
地球の硬さは分かっていますから、計算して見ると、直径20キロメートルなら十分、ということになりました。
球としては、もちろん巨大です。東京でいえば、23区がすっぽりと覆われてしまうくらいの球ですから。
しかし、考えて見て下さい。地球の大きさを知っていますか。さしわたしが13000キロメートルもある地球に比べれば、20キロとはいっても、その直径のわずか700分の1にしかすぎません。
ちょっと離れて見れば、ゴミのようなもの。
にわかには信じがたいことですが、地球をタマゴの大きさに例えたときには、仁丹の大きさどころか、そのわずか十分の一の鉄の球でも、地球の中に、どんどん、めり込んでいってしまうのです。
こんな大きさの鉄の球を支えきれないほど、じつは地球は軟らかいのです。
めり込んだ球は、どうなるでしょう。
その球は、地球の引力のために、そのままどんどん地球の中へ落ちて行きます。地球の中は、地球の表を覆っている岩に比べて、ずっと軟らかいものですから、いったん地球の表面にある殻を突き抜けた球を止められるものは、もうないのです。
この球は、ついに地球の中心まで、どんどん、降りて行ってしまうのです。
学者というものは変わったことを考えるものです。
もし、こんな球が実際に作れれば、それは、地球の中を探る探検船に使えるはずだ、と考えた地球物理学者がいました。
月に人類が降り立って、火星や金星に探査機が飛んで行く時代なのに、じつは地球の中のことは、まだ、あまり良く分かっていません。よく分かっていない地球の中を調べるには、行ってみるのが一番です。
地球に穴を掘りながら地球の中へ降りて行くのはどうでしょう。
でも、そのためには、掘削するための大変なエネルギーが必要です。深い穴を掘る技術も、まだ未開発です。いまの人類は地球の半径のせいぜい500分の一までしか、穴を掘ったことはないのです。
しかし、この巨大な球の地球探検船は、推進エネルギーがなくても、わざわざ穴を掘らなくても、なんとも強引な方法だけれども、地球の中心まで、自然に降りていくのがミソなのです。
どのくらい速く降りていくって?
これは、とてもゆっくりです。なぜなら、地球の中にある、熱くて軟らかくなった岩をかき分けながらおりていくからです。
計算によれば、中心まで約百年ほどかかる長い旅になるものと思われています。
地球の中の温度が高すぎて、鉄の球では熔けてしまわないだろうかって?
ええ。
たしかに地球の中の温度は、鉄も熔けてしまうほどの温度です。
探検船の外側は、もちろん熔け出してしまいます。しかし、鉄を厚くして、中に断熱材をたくさん入れて置けば、百年経っても、まだ、中の温度は、人間が住んだり、観測の機械が耐えられるくらいの温度でいることが出来ます。
もちろん、もっと長い時間が経てば、やがてはこの球は、中まで温度が上がって、溶けて跡形もなくなってしまうでしょう。しかし、それまでにこの探検船が地球の中を探る使命を終わっていれば、かまわないのです。
どうです。なんとなく、実現可能な計画に見えませんか。
しかし、この地球探査計画は、いまのところ空想だけのものです。
なぜでしょう。
ひとつは、この探検船には、残念ながら、帰って来る手段はないことです。
地球の引力を使って地球の中心に行ってしまったら、今度はそこから戻って来るためには、引力はもう使えません。
自分の力で、地球の中心から表まで、出て来るためのエネルギーは莫大すぎて、いまの技術ではまかなえないからです。
でも、百年もかかるのなら、片道だけでも結構、乗って行ってもいい、という科学者や探検家がいるかも知れません。
君ならば、乗ってみますか?
しかし、必ず死ぬに決まっているところへ行くのは、人道上、問題になるかも知れません。
でも、無人でデータだけを送って来る探検船ならどうでしょう。
これなら、人道的な問題はないはずです。
じつは、これも実際には難しいのです。
それは、地球に20キロもある大きな穴をあけて鉄の球が落ちて行ったら、そのあとに残った穴はどうなるのか、とか、穴からマグマが出てこないか、といったいろいろな難問があるからです。
それだけではありません。鉄の球を組み立てていって、完成するまでに球が潜り込みはじめないように、どうやって押さえておくか、も難しい課題です。
ですから、この地球探検船は、思い付きは良いのですが、空想の計画にしかすぎません。
でも、私たちは、本の中では、この空想の地底探検船に乗ったつもりになって、地球の中を探る旅に出ることが出来ます。この空想の探検船ならば、百年もかからないで、地球の中心に到達することが出来ます。
では、どうぞ探検船に乗って下さい。
球の外側はむき出しの鉄で無骨なのですが、内部は最新鋭の設備と観測機器が詰まっています。
探検船の出発台は、宇宙へ向かうロケットと同じで、ランチャーと呼ばれています。地下への出発も、宇宙船のように、やはりランチャーにあるタラップを登って、探検船に入るのです。
中はずいぶん広いでしょう。実験室や分析室はもちろん、皆さんの居室も、驚くほど広くとってあります。なにせ、いままでに人類が作ったいちばん大きな乗 り物ですから、宇宙船や深海潜水艇の中のような、ゴチャゴチャした狭い空間とはちがう、ゆったりとしたつくりなのです。
世界初の地下探検船の出発を報道しようと、まわりには多くのテレビカメラや人々が集まっているのが、探査船の窓から見えます。
出発しましょうか。
球は、自分の重さで豆腐の中に沈んでいってしまうはずです。
では、大きな鉄の球を地球の上に置いたら、どうなるでしょう。
球の大きさが十メートルとか、百メートルとか、といった球ならば、地面が少しへこむかも知れませんが、もちろん、それ以上のことは起こりません。
しかし球がずっと大きなものならば、どうでしょう。その球は、自分の重さで、どんどん地球の中にめり込んで行ってしまうのです。
どのくらい大きな球ならばこうなるでしょう。
地球の硬さは分かっていますから、計算して見ると、直径20キロメートルなら十分、ということになりました。
球としては、もちろん巨大です。東京でいえば、23区がすっぽりと覆われてしまうくらいの球ですから。
しかし、考えて見て下さい。地球の大きさを知っていますか。さしわたしが13000キロメートルもある地球に比べれば、20キロとはいっても、その直径のわずか700分の1にしかすぎません。
ちょっと離れて見れば、ゴミのようなもの。
にわかには信じがたいことですが、地球をタマゴの大きさに例えたときには、仁丹の大きさどころか、そのわずか十分の一の鉄の球でも、地球の中に、どんどん、めり込んでいってしまうのです。
こんな大きさの鉄の球を支えきれないほど、じつは地球は軟らかいのです。
めり込んだ球は、どうなるでしょう。
その球は、地球の引力のために、そのままどんどん地球の中へ落ちて行きます。地球の中は、地球の表を覆っている岩に比べて、ずっと軟らかいものですから、いったん地球の表面にある殻を突き抜けた球を止められるものは、もうないのです。
この球は、ついに地球の中心まで、どんどん、降りて行ってしまうのです。
学者というものは変わったことを考えるものです。
もし、こんな球が実際に作れれば、それは、地球の中を探る探検船に使えるはずだ、と考えた地球物理学者がいました。
月に人類が降り立って、火星や金星に探査機が飛んで行く時代なのに、じつは地球の中のことは、まだ、あまり良く分かっていません。よく分かっていない地球の中を調べるには、行ってみるのが一番です。
地球に穴を掘りながら地球の中へ降りて行くのはどうでしょう。
でも、そのためには、掘削するための大変なエネルギーが必要です。深い穴を掘る技術も、まだ未開発です。いまの人類は地球の半径のせいぜい500分の一までしか、穴を掘ったことはないのです。
しかし、この巨大な球の地球探検船は、推進エネルギーがなくても、わざわざ穴を掘らなくても、なんとも強引な方法だけれども、地球の中心まで、自然に降りていくのがミソなのです。
どのくらい速く降りていくって?
これは、とてもゆっくりです。なぜなら、地球の中にある、熱くて軟らかくなった岩をかき分けながらおりていくからです。
計算によれば、中心まで約百年ほどかかる長い旅になるものと思われています。
地球の中の温度が高すぎて、鉄の球では熔けてしまわないだろうかって?
ええ。
たしかに地球の中の温度は、鉄も熔けてしまうほどの温度です。
探検船の外側は、もちろん熔け出してしまいます。しかし、鉄を厚くして、中に断熱材をたくさん入れて置けば、百年経っても、まだ、中の温度は、人間が住んだり、観測の機械が耐えられるくらいの温度でいることが出来ます。
もちろん、もっと長い時間が経てば、やがてはこの球は、中まで温度が上がって、溶けて跡形もなくなってしまうでしょう。しかし、それまでにこの探検船が地球の中を探る使命を終わっていれば、かまわないのです。
どうです。なんとなく、実現可能な計画に見えませんか。
しかし、この地球探査計画は、いまのところ空想だけのものです。
なぜでしょう。
ひとつは、この探検船には、残念ながら、帰って来る手段はないことです。
地球の引力を使って地球の中心に行ってしまったら、今度はそこから戻って来るためには、引力はもう使えません。
自分の力で、地球の中心から表まで、出て来るためのエネルギーは莫大すぎて、いまの技術ではまかなえないからです。
でも、百年もかかるのなら、片道だけでも結構、乗って行ってもいい、という科学者や探検家がいるかも知れません。
君ならば、乗ってみますか?
しかし、必ず死ぬに決まっているところへ行くのは、人道上、問題になるかも知れません。
でも、無人でデータだけを送って来る探検船ならどうでしょう。
これなら、人道的な問題はないはずです。
じつは、これも実際には難しいのです。
それは、地球に20キロもある大きな穴をあけて鉄の球が落ちて行ったら、そのあとに残った穴はどうなるのか、とか、穴からマグマが出てこないか、といったいろいろな難問があるからです。
それだけではありません。鉄の球を組み立てていって、完成するまでに球が潜り込みはじめないように、どうやって押さえておくか、も難しい課題です。
ですから、この地球探検船は、思い付きは良いのですが、空想の計画にしかすぎません。
でも、私たちは、本の中では、この空想の地底探検船に乗ったつもりになって、地球の中を探る旅に出ることが出来ます。この空想の探検船ならば、百年もかからないで、地球の中心に到達することが出来ます。
では、どうぞ探検船に乗って下さい。
球の外側はむき出しの鉄で無骨なのですが、内部は最新鋭の設備と観測機器が詰まっています。
探検船の出発台は、宇宙へ向かうロケットと同じで、ランチャーと呼ばれています。地下への出発も、宇宙船のように、やはりランチャーにあるタラップを登って、探検船に入るのです。
中はずいぶん広いでしょう。実験室や分析室はもちろん、皆さんの居室も、驚くほど広くとってあります。なにせ、いままでに人類が作ったいちばん大きな乗 り物ですから、宇宙船や深海潜水艇の中のような、ゴチャゴチャした狭い空間とはちがう、ゆったりとしたつくりなのです。
世界初の地下探検船の出発を報道しようと、まわりには多くのテレビカメラや人々が集まっているのが、探査船の窓から見えます。
出発しましょうか。
(第2節と第3節は略)
第4節:地球はタマゴだ
さて、おしゃべりが長くなりました。
探検船は、すでに、地球の中にめり込み始めています。
何回も地震を感じるでしょう。地球の浅いところには、地震が多いのです。でも、これは潜り始めたのが日本だったからです。
もしシベリアから潜り始めたのなら、地震はほとんど感じないまま、地球の中に潜って行くことになったでしょう。
私たちが乗った探検船は、地球の表面にある、厚さ百キロメートルほどの硬い岩を突破する間は、ゆっくりだけれど、結構ゆらゆら、揺れました。
このへんの岩は、あっちに固いところがあったり、こっちに軟らかいところがあったりして、均質ではないのです。
探検船の窓から見える岩の色も、さまざまでした。探検船のまわりの岩を取ってきて調べている分析室も、岩の種類が多いので、忙しそうです。
しかし、この硬い岩をいったん突破してしまうと、地球の中は、もっとずっと軟らかい岩しかないので、探検船は、静かに静かに、地球の中を降りて行っています。いま探検船の深度計は160キロメートルを指しています。
岩の種類も少なくなってきて、分析室も、落ち着きを取り戻しました。
地球の中の真実の姿はどんなものなのでしょう。
地球は、その中身のありさまから見れば、野球のボールよりは、生タマゴにずっとよく似ています。
地球の場合、タマゴの殻にあたるものがプレートといわれている岩の板です。この岩は、私たちがふだん見ている岩と同じものです。黒かったり茶色かったり、あまりきれいなものではありません。
このプレートは地球の表面をタマゴの殻のように、全部、覆っています。
外からタマゴの白身が見えないのと同じで、地球の表には、地球の白身は顔を出してはいません。
地球の殻であるプレートの厚さは、普通は70から150キロメートルくらい。つまり富士山の高さの20倍から40倍の厚さがあります。プレートが出来たばかりのところなど、一部の場所では20〜30キロのところもあります。
この70から150キロという厚さは、地球をタマゴの大きさに縮めたときには、ちょうどタマゴの殻くらいの厚さなのです。私たちが乗っている探検船の大きさの10倍もないのです。
さて、タマゴと地球と、どっちが強いのでしょう。
岩の方がタマゴよりも強いに決まっているって?
いえ、そうではありません。じつは地球はタマゴと比べると、ずっと弱いのです。
タマゴは、机の上に置いても、もちろん何も起こりません。
しかし、地球はちがいます。
もし地球を何かの上に置いたとしましょう。何が起こるでしょう。
地球は自分の重みだけでペシャンコに潰れてしまうのです。
地球の殻は地球を支えることは出来ません。地球とはそれほど弱いものなのです。地球は宇宙に浮いているからこそ、丸い形でいられるのです。
地球の殻の中には、地球の白身があります。タマゴのように白くはありません。
これは、プレートよりはずっと軟らかい岩です。
まわりの温度が高かったり、岩の種類がちがうために、プレートよりはずっと軟らかくなっている岩です。
硬い岩を突破した探検船が、静かに地球の中を降りて行っているのは、このせいです。
この地球の白身はマントルといわれています。
探検船は、すでに、地球の中にめり込み始めています。
何回も地震を感じるでしょう。地球の浅いところには、地震が多いのです。でも、これは潜り始めたのが日本だったからです。
もしシベリアから潜り始めたのなら、地震はほとんど感じないまま、地球の中に潜って行くことになったでしょう。
私たちが乗った探検船は、地球の表面にある、厚さ百キロメートルほどの硬い岩を突破する間は、ゆっくりだけれど、結構ゆらゆら、揺れました。
このへんの岩は、あっちに固いところがあったり、こっちに軟らかいところがあったりして、均質ではないのです。
探検船の窓から見える岩の色も、さまざまでした。探検船のまわりの岩を取ってきて調べている分析室も、岩の種類が多いので、忙しそうです。
しかし、この硬い岩をいったん突破してしまうと、地球の中は、もっとずっと軟らかい岩しかないので、探検船は、静かに静かに、地球の中を降りて行っています。いま探検船の深度計は160キロメートルを指しています。
岩の種類も少なくなってきて、分析室も、落ち着きを取り戻しました。
地球の中の真実の姿はどんなものなのでしょう。
地球は、その中身のありさまから見れば、野球のボールよりは、生タマゴにずっとよく似ています。
地球の場合、タマゴの殻にあたるものがプレートといわれている岩の板です。この岩は、私たちがふだん見ている岩と同じものです。黒かったり茶色かったり、あまりきれいなものではありません。
このプレートは地球の表面をタマゴの殻のように、全部、覆っています。
外からタマゴの白身が見えないのと同じで、地球の表には、地球の白身は顔を出してはいません。
地球の殻であるプレートの厚さは、普通は70から150キロメートルくらい。つまり富士山の高さの20倍から40倍の厚さがあります。プレートが出来たばかりのところなど、一部の場所では20〜30キロのところもあります。
この70から150キロという厚さは、地球をタマゴの大きさに縮めたときには、ちょうどタマゴの殻くらいの厚さなのです。私たちが乗っている探検船の大きさの10倍もないのです。
さて、タマゴと地球と、どっちが強いのでしょう。
岩の方がタマゴよりも強いに決まっているって?
いえ、そうではありません。じつは地球はタマゴと比べると、ずっと弱いのです。
タマゴは、机の上に置いても、もちろん何も起こりません。
しかし、地球はちがいます。
もし地球を何かの上に置いたとしましょう。何が起こるでしょう。
地球は自分の重みだけでペシャンコに潰れてしまうのです。
地球の殻は地球を支えることは出来ません。地球とはそれほど弱いものなのです。地球は宇宙に浮いているからこそ、丸い形でいられるのです。
地球の殻の中には、地球の白身があります。タマゴのように白くはありません。
これは、プレートよりはずっと軟らかい岩です。
まわりの温度が高かったり、岩の種類がちがうために、プレートよりはずっと軟らかくなっている岩です。
硬い岩を突破した探検船が、静かに地球の中を降りて行っているのは、このせいです。
この地球の白身はマントルといわれています。
第5節:地球で一番深い穴
石油を取るためには深い穴を掘ることは知っていますね。
金などの鉱石も、深い穴を掘って取り出します。南アフリカでは、3500メートルを越えるところで、金を掘り出しています。
そこでの温度は52℃。私の知人の地球物理学者が観測器を置きに行ったことがありますが、汗が身体から噴き出るように出て、止まらないそうです。
日本でも1000メートルを越えるところから石炭を掘り出しています。
では、人間がいままでに掘ったいちばん深い穴は、どのくらい深いのか、地球のどこまで達しているのか、知っていますか。
私たち地球物理学者は地球の内部を研究するのが仕事です。その私たちからいえば歯がゆいことなのですが、じつは人間が掘った穴は、なんと地球タマゴのカラにちょっとキズをつけたくらい、つまりカラの厚さの10分の1にしか達していないのです。
その穴の深さは12キロメートル。地球の半径は6500キロメートルありますから、そのわずか約500分の1にしかなりません。サッカーのボールの縫目の深さもありません。
この穴は、ソ連のコラ半島というところにあります。北極海に突き出した半島で、ソ連の西北の端に近いところです。
この世界一深い穴は、鉱山のように人間が入れる穴ではありません。
もっとずっと細いもので、石油の井戸のように、まっすぐ下に向かって掘ってある穴です。
この穴は、いま掘っている最中です。じつはソ連の科学者は、この穴をもう20年間も掘りつづけているのです。
現代の青の洞門のような話です。いかにも大国らしい、気の長い話だと言うべきでしょう。
なんのために、こんな深い穴を掘っているのでしょう。
ひとつの目的は深い穴を掘る技術の進歩のためです。将来、石油や天然ガス、それに金属などの資源を、いまよりもずっと深くから掘り出すことが必要になるかも知れません。
しかし、おもな目的は、地球の中にある岩を取って来て調べるため、つまり地球の内部の研究です。
こんな深いところから岩を取ってきたことはありませんから、取れた岩は、研究に大いに役立っています。
じつは、取れて来た岩の中には、地表で得られたデータを使ったいろいろな研究の結果から想像していたのとはちがう岩も混じっていました。このため、今まで、地球の中を研究して来た方法が正しかったのかどうか、議論になったことさえもあります。
また、温度も、予想とはちがいました。思ったよりもずっと高かったのです。
この穴は最終的なゴールとしては15キロメートルをめざしています。しかし、穴が深くなるほど穴掘りが難しくなっているので、どこまで行けるか、いつ掘りおわるのか、いまのところは分かりません。
このほか、西ドイツやスウェーデンでも地球の中を研究するための深い穴を掘りはじめました。世界の地球科学では、地球の中を研究するために、深い穴を掘ることが、ブームになっているのです。
しかし、経済大国である日本では、まだ、深い穴を掘るための研究予算が得られません。残念なことですが、石油や地熱を得るために穴を掘るお金は出やすくても、科学のためのお金は、日本では出にくいのです。
この深い穴はもちろん、研究には役立っています。しかし、こんな深い穴を掘っても、地球タマゴのごく浅いところの岩だけしか、取ることは出来ません。
しかも、穴は一ケ所だけですから、穴の底から取ってきた岩が、地球の他の場所にある岩と同じかどうかも分からないのです。
地球の中全体を調べるには、もっと別の方法も使わなければならないのです。
金などの鉱石も、深い穴を掘って取り出します。南アフリカでは、3500メートルを越えるところで、金を掘り出しています。
そこでの温度は52℃。私の知人の地球物理学者が観測器を置きに行ったことがありますが、汗が身体から噴き出るように出て、止まらないそうです。
日本でも1000メートルを越えるところから石炭を掘り出しています。
では、人間がいままでに掘ったいちばん深い穴は、どのくらい深いのか、地球のどこまで達しているのか、知っていますか。
私たち地球物理学者は地球の内部を研究するのが仕事です。その私たちからいえば歯がゆいことなのですが、じつは人間が掘った穴は、なんと地球タマゴのカラにちょっとキズをつけたくらい、つまりカラの厚さの10分の1にしか達していないのです。
その穴の深さは12キロメートル。地球の半径は6500キロメートルありますから、そのわずか約500分の1にしかなりません。サッカーのボールの縫目の深さもありません。
この穴は、ソ連のコラ半島というところにあります。北極海に突き出した半島で、ソ連の西北の端に近いところです。
この世界一深い穴は、鉱山のように人間が入れる穴ではありません。
もっとずっと細いもので、石油の井戸のように、まっすぐ下に向かって掘ってある穴です。
この穴は、いま掘っている最中です。じつはソ連の科学者は、この穴をもう20年間も掘りつづけているのです。
現代の青の洞門のような話です。いかにも大国らしい、気の長い話だと言うべきでしょう。
なんのために、こんな深い穴を掘っているのでしょう。
ひとつの目的は深い穴を掘る技術の進歩のためです。将来、石油や天然ガス、それに金属などの資源を、いまよりもずっと深くから掘り出すことが必要になるかも知れません。
しかし、おもな目的は、地球の中にある岩を取って来て調べるため、つまり地球の内部の研究です。
こんな深いところから岩を取ってきたことはありませんから、取れた岩は、研究に大いに役立っています。
じつは、取れて来た岩の中には、地表で得られたデータを使ったいろいろな研究の結果から想像していたのとはちがう岩も混じっていました。このため、今まで、地球の中を研究して来た方法が正しかったのかどうか、議論になったことさえもあります。
また、温度も、予想とはちがいました。思ったよりもずっと高かったのです。
この穴は最終的なゴールとしては15キロメートルをめざしています。しかし、穴が深くなるほど穴掘りが難しくなっているので、どこまで行けるか、いつ掘りおわるのか、いまのところは分かりません。
このほか、西ドイツやスウェーデンでも地球の中を研究するための深い穴を掘りはじめました。世界の地球科学では、地球の中を研究するために、深い穴を掘ることが、ブームになっているのです。
しかし、経済大国である日本では、まだ、深い穴を掘るための研究予算が得られません。残念なことですが、石油や地熱を得るために穴を掘るお金は出やすくても、科学のためのお金は、日本では出にくいのです。
この深い穴はもちろん、研究には役立っています。しかし、こんな深い穴を掘っても、地球タマゴのごく浅いところの岩だけしか、取ることは出来ません。
しかも、穴は一ケ所だけですから、穴の底から取ってきた岩が、地球の他の場所にある岩と同じかどうかも分からないのです。
地球の中全体を調べるには、もっと別の方法も使わなければならないのです。
第6節:地球の中は暗いか、明るいか
地球の中は、どのくらい熱いものか、知っていますか。
温泉は地下から出てきます。浅いものは数メートルということもありますが、深い温泉は何百メートルものところから出て来ています。
温泉とは、地下にある水が、まわりの岩の温度まで暖められて出て来るものですから、地下は地球の上よりも熱いことが分かります。
火山の噴火も、地下から岩が溶けたもの、つまりマグマが上がって来て起こすものです。つまり、マグマは岩が溶けるほどの温度のところから上がってきたのです。
探検船の外側の温度を示す温度計は、温度がどんどん上がって行くのを示しています。
地球の中に入れば入るほど、どんどん温度が上がっていくのです。探検船の内部はほどよくエアコンがきいていますが、外は恐ろしい温度になっているのです。
地球はタマゴに似ている、という話をしました。
その地球タマゴの殻のすぐ中側、つまり地球の中に百キロも潜れば、そこの温度はもう、1000℃から1300℃にもなっています。
1300℃という温度は想像がつくでしょうか。金属でいえば、スズは230℃、鉛は330℃で溶けて液体になってしまいます。
金でも1060℃、銅でも1080℃で溶けてしまいます。地球の中とは、それよりずっと高い温度なのです。
しかし、地球の中は、圧力も強い世界です。このため、地表でモノが溶ける温度でも、地下では、まだ溶けないこともあるのです。
ですから、探検船の窓を通して外に見える岩は、まだ固体です。しかし温度は、もう1300℃にもなっているのです。
世界の多くの国で、昔の人は、地下にある地獄では火が燃えていると思っていました。じつは、これは正しかったのです。温度からいえば、確かに地球の中は、火が燃えさかっているのと同じですから。
さて、地球の中は暗黒の世界でしょうか。それはマチガイなのです。
溶鉱炉から出て来る溶けた鉄を見たことがありますか。どんなものでも温度が高くなれば、あの鉄のように光るのです。
温度が500℃とか700℃では赤黒い色ですが、温度が1000℃を越えて上がって来ると、あざやかな赤色からダイダイ色に変わってきます。
そして、1300℃を越えると、ほとんどまっ白になります。
つまりどんなものでも、1500℃にもなると、まぶしい光を放つのです。
さらに地球の中にいけば、温度はもっと高くなるのです。地球の中心では4000℃にもなります。
探検船の窓から見えるまわりの景色の色は、暗赤色から赤色、やがてオレンジ色に変わって来ました。これが地球の中の本当の姿です。
そしていずれは、太陽の光のような、まぶしい白色に変わって行く地球の内部が見えるはずです。
地球の中は燃えているのです。
地球の中は、けっして暗黒の世界ではなくて、まばゆい光に満ちている世界です。
温泉は地下から出てきます。浅いものは数メートルということもありますが、深い温泉は何百メートルものところから出て来ています。
温泉とは、地下にある水が、まわりの岩の温度まで暖められて出て来るものですから、地下は地球の上よりも熱いことが分かります。
火山の噴火も、地下から岩が溶けたもの、つまりマグマが上がって来て起こすものです。つまり、マグマは岩が溶けるほどの温度のところから上がってきたのです。
探検船の外側の温度を示す温度計は、温度がどんどん上がって行くのを示しています。
地球の中に入れば入るほど、どんどん温度が上がっていくのです。探検船の内部はほどよくエアコンがきいていますが、外は恐ろしい温度になっているのです。
地球はタマゴに似ている、という話をしました。
その地球タマゴの殻のすぐ中側、つまり地球の中に百キロも潜れば、そこの温度はもう、1000℃から1300℃にもなっています。
1300℃という温度は想像がつくでしょうか。金属でいえば、スズは230℃、鉛は330℃で溶けて液体になってしまいます。
金でも1060℃、銅でも1080℃で溶けてしまいます。地球の中とは、それよりずっと高い温度なのです。
しかし、地球の中は、圧力も強い世界です。このため、地表でモノが溶ける温度でも、地下では、まだ溶けないこともあるのです。
ですから、探検船の窓を通して外に見える岩は、まだ固体です。しかし温度は、もう1300℃にもなっているのです。
世界の多くの国で、昔の人は、地下にある地獄では火が燃えていると思っていました。じつは、これは正しかったのです。温度からいえば、確かに地球の中は、火が燃えさかっているのと同じですから。
さて、地球の中は暗黒の世界でしょうか。それはマチガイなのです。
溶鉱炉から出て来る溶けた鉄を見たことがありますか。どんなものでも温度が高くなれば、あの鉄のように光るのです。
温度が500℃とか700℃では赤黒い色ですが、温度が1000℃を越えて上がって来ると、あざやかな赤色からダイダイ色に変わってきます。
そして、1300℃を越えると、ほとんどまっ白になります。
つまりどんなものでも、1500℃にもなると、まぶしい光を放つのです。
さらに地球の中にいけば、温度はもっと高くなるのです。地球の中心では4000℃にもなります。
探検船の窓から見えるまわりの景色の色は、暗赤色から赤色、やがてオレンジ色に変わって来ました。これが地球の中の本当の姿です。
そしていずれは、太陽の光のような、まぶしい白色に変わって行く地球の内部が見えるはずです。
地球の中は燃えているのです。
地球の中は、けっして暗黒の世界ではなくて、まばゆい光に満ちている世界です。
第7節:巨大な圧力に耐えて
プレートよりも深く潜って行くと、探検船はマントルの中を下りて行くことになります。探検船の窓からは、白っぽい、まぶしい光がさしこんで来ています。
まわりの温度はどんどん上がり、岩はしだいに軟らかくなって行きます。
中にはところどころ、岩が溶けているところもあります。まだ、固体のままのところもあります。
いま、探検船の深度計の目盛りは200キロメートルを指しています。
場所によっては溶けているこの岩が、じつは火山の源になるマグマです。日本のように火山のあるところの下には溶けた岩があり、火山がない場所の下では、岩は溶けていません。
窓から見える、まぶしく光輝く岩の温度はすでに1300度を越えています。
深度計の針は400キロメートルまで達しました。
あらら、まわりの岩には、溶けているところはなくなってしまいました。
地球の中へ深く行けば行くほど、温度は上がって行きます。しかし、中へ行けば行くほど、同時に圧力も上がって行くのです。
圧力とは、今いる場所から上、地表までの岩の重さです。乗っかっている岩の分だけ力がかかっているのです。上に海があれば、さらに、その海水の重さも加わっています。
このへんまで来れば、圧力は1センチ四方の大きさ、つまり爪の大きさのところに100トン以上、というすごい圧力がかかっているのです。切手1枚の面積の上には、なんとジャンボジェット機が乗っている力です。
このすごい圧力のために、たとえ温度は上がって行っても、押された岩が硬くなるために、岩が溶けにくくなってしまうのです。
地球の中では、「岩を溶かしてやる」という温度と、「なに、こちらこそ岩を固めてやる」という圧力が、競争しあっているのです。岩が溶けるか、溶けないか、の綱引きをやっているようなものです。
地球の中はなかなか複雑です。地球の中深くへ行けば行くほど、軟らかくなって溶けて行くような単純なものではありません。
また、岩が溶けるか、溶けないかには、その場所にどのくらいの水分があるか、が関係していることが分かってきました。こんな温度が高くて、圧力が高いところでも、岩に含まれた形で水があるのです。
しかし、岩が実際に溶けているか溶けていないか、に関係なく、探検船に備えた測定器のデータからは、ものすごくゆっくりですが、岩が動いているのが分かります。しかし、動く速さが遅すぎて、窓からは動いているのは見えないでしょう。
そう、地球の中の岩は、たとえ固体のままでも、水飴をかきまわしたときのように、ゆっくりと動いているのです。それは、固体の岩が、ゆっくりと形を変えて行き、他の岩とゆっくり置き変わって行くことでわかります。
地球の時間のスケールでは、こうして固体の岩でも「流れて」行くのです。
まわりの温度はどんどん上がり、岩はしだいに軟らかくなって行きます。
中にはところどころ、岩が溶けているところもあります。まだ、固体のままのところもあります。
いま、探検船の深度計の目盛りは200キロメートルを指しています。
場所によっては溶けているこの岩が、じつは火山の源になるマグマです。日本のように火山のあるところの下には溶けた岩があり、火山がない場所の下では、岩は溶けていません。
窓から見える、まぶしく光輝く岩の温度はすでに1300度を越えています。
深度計の針は400キロメートルまで達しました。
あらら、まわりの岩には、溶けているところはなくなってしまいました。
地球の中へ深く行けば行くほど、温度は上がって行きます。しかし、中へ行けば行くほど、同時に圧力も上がって行くのです。
圧力とは、今いる場所から上、地表までの岩の重さです。乗っかっている岩の分だけ力がかかっているのです。上に海があれば、さらに、その海水の重さも加わっています。
このへんまで来れば、圧力は1センチ四方の大きさ、つまり爪の大きさのところに100トン以上、というすごい圧力がかかっているのです。切手1枚の面積の上には、なんとジャンボジェット機が乗っている力です。
このすごい圧力のために、たとえ温度は上がって行っても、押された岩が硬くなるために、岩が溶けにくくなってしまうのです。
地球の中では、「岩を溶かしてやる」という温度と、「なに、こちらこそ岩を固めてやる」という圧力が、競争しあっているのです。岩が溶けるか、溶けないか、の綱引きをやっているようなものです。
地球の中はなかなか複雑です。地球の中深くへ行けば行くほど、軟らかくなって溶けて行くような単純なものではありません。
また、岩が溶けるか、溶けないかには、その場所にどのくらいの水分があるか、が関係していることが分かってきました。こんな温度が高くて、圧力が高いところでも、岩に含まれた形で水があるのです。
しかし、岩が実際に溶けているか溶けていないか、に関係なく、探検船に備えた測定器のデータからは、ものすごくゆっくりですが、岩が動いているのが分かります。しかし、動く速さが遅すぎて、窓からは動いているのは見えないでしょう。
そう、地球の中の岩は、たとえ固体のままでも、水飴をかきまわしたときのように、ゆっくりと動いているのです。それは、固体の岩が、ゆっくりと形を変えて行き、他の岩とゆっくり置き変わって行くことでわかります。
地球の時間のスケールでは、こうして固体の岩でも「流れて」行くのです。
ところで、多くの地震は、地球の中でも浅いところに起きますが、中には深いところに起きる地震もあります。
深い地震のうち、400キロメートルの深さの近くでは、不思議なことに、ほかの深さのところよりも地震が少ないのです。探検船でも、ほとんど地震を感じなかったでしょう。
これは400キロメートルの近くで岩の性質が変わるせいだと思われています。
この深さより上と下とで、地震の波が岩の中を伝わる速さがちがったり、また岩の重さが急に変ったりしている不思議な境なのです。しかし、まだ詳しいことは分かっていません。
探検船のまわりの岩を取ってきて調べている分析室は、マントルに入ってからはしばらく手持ち無沙汰だったのですが、この400キロメートルの前後では、また忙しくなりました。
なぜ、こんな境があるのか、分析の結果が出れば、ナゾが解けるでしょう。
探検船の深度計は650から700キロメートルになろうとしています。地震がなくなる深さです。これで地球の地震ともお別れです。約700キロになる と、世界中どこでも、地震がぱったりと起きなくなってしまうのです。これ以上のところでは、地震は起きません。
この深さでも、岩の性質が変わる何かの境があるのです。でもその境がどんなものかは、分かっていません。
分析室は、また忙しそうです。
これより深くなると、しばらくは地球内部の旅は退屈なものになります。窓の外の景色は、ほとんど変わりません。
しかし、その下には、ぎょっとするような景色がありました。
深度計の針は深さ2900キロメートルを示しています。
探検船が、突然、まったく揺れなくなったのです。
そこには、岩ではなく、何と溶けた金属の「海」が広がっていたのです。地球の中にある「海」です。
深い地震のうち、400キロメートルの深さの近くでは、不思議なことに、ほかの深さのところよりも地震が少ないのです。探検船でも、ほとんど地震を感じなかったでしょう。
これは400キロメートルの近くで岩の性質が変わるせいだと思われています。
この深さより上と下とで、地震の波が岩の中を伝わる速さがちがったり、また岩の重さが急に変ったりしている不思議な境なのです。しかし、まだ詳しいことは分かっていません。
探検船のまわりの岩を取ってきて調べている分析室は、マントルに入ってからはしばらく手持ち無沙汰だったのですが、この400キロメートルの前後では、また忙しくなりました。
なぜ、こんな境があるのか、分析の結果が出れば、ナゾが解けるでしょう。
探検船の深度計は650から700キロメートルになろうとしています。地震がなくなる深さです。これで地球の地震ともお別れです。約700キロになる と、世界中どこでも、地震がぱったりと起きなくなってしまうのです。これ以上のところでは、地震は起きません。
この深さでも、岩の性質が変わる何かの境があるのです。でもその境がどんなものかは、分かっていません。
分析室は、また忙しそうです。
これより深くなると、しばらくは地球内部の旅は退屈なものになります。窓の外の景色は、ほとんど変わりません。
しかし、その下には、ぎょっとするような景色がありました。
深度計の針は深さ2900キロメートルを示しています。
探検船が、突然、まったく揺れなくなったのです。
そこには、岩ではなく、何と溶けた金属の「海」が広がっていたのです。地球の中にある「海」です。
第8節:探検船、地底の海へ
さて私たちの探検船は、深さ2900キロメートルのところで液体に飛び込みました。地球の中にある、巨大な液体の海に入ったのです。
探検船は、このマントルをかき分けて降りて行ったあとは、今度は軟らかくなった岩ではなくて、今度は、熔けてしまった岩の中に飛び込んだのです。
これは地球の中心にある、タマゴでいえば黄身にあたる芯です。
これは、生タマゴと同じで、本当に液体の球なのです。岩のような固体ではありません。
この球の大きさはタマゴでいえば、ちょうど黄身くらいの大きさです。
球の実際の直径は約7000キロメートルほどあります。月よりも2倍も大きな、火星くらいの大きさもある巨大な球です。地球はこんなものを中にかかえているのです。
この球は溶けた鉄で出来ています。
こうしてみると、地球はなんとタマゴに似ていることでしょう。
タマゴが地球に似せたのではないかと思うくらい、よく似ています。
この海は外核(がいかく)と言われています。金属、それもほとんどが鉄の成分で、ニッケルやそのほかの金属も少し混じっています。
溶鉱炉から出て来る溶けた鉄のように高い温度になっていて、光り輝いている鉄が地球の黄身なのです。
金属が溶けて、しかも、ゆっくりながら、動き回っているのが測定器のデータから分かります。窓からも液体が動いた跡の渦のようなものが見えています。
まわりは、まぶしく光る溶けた金属が続きます。
地球の中には、こんな大きな液体の球があったのです。
この金属の海の中には、恐ろしく強い電流が流れているのが探検船にある測定機の針から分かります。いままで、これほど強い電流は、地球の中のどこにも流れていませんでした。
巨大な溶けた金属の球の中で、金属が動きまわり、そして強い電気も流れます。
この金属の球は、じつは巨大な発電機の役目をしているのです。
人類は、まだこのような巨大でしかも効率がいい発電機を発明していません。いや、どんなメカニズムで発電できるのか、その原理さえ分かっていないのです。
そしてまた、この発電機は地球の磁石の元でもあるのです。地球の磁石はこの発電機が作っている電磁石なのです。
つまり、世界一大きな発電機と、世界一大きな電磁石がここにあったのです。
探検船は、このマントルをかき分けて降りて行ったあとは、今度は軟らかくなった岩ではなくて、今度は、熔けてしまった岩の中に飛び込んだのです。
これは地球の中心にある、タマゴでいえば黄身にあたる芯です。
これは、生タマゴと同じで、本当に液体の球なのです。岩のような固体ではありません。
この球の大きさはタマゴでいえば、ちょうど黄身くらいの大きさです。
球の実際の直径は約7000キロメートルほどあります。月よりも2倍も大きな、火星くらいの大きさもある巨大な球です。地球はこんなものを中にかかえているのです。
この球は溶けた鉄で出来ています。
こうしてみると、地球はなんとタマゴに似ていることでしょう。
タマゴが地球に似せたのではないかと思うくらい、よく似ています。
この海は外核(がいかく)と言われています。金属、それもほとんどが鉄の成分で、ニッケルやそのほかの金属も少し混じっています。
溶鉱炉から出て来る溶けた鉄のように高い温度になっていて、光り輝いている鉄が地球の黄身なのです。
金属が溶けて、しかも、ゆっくりながら、動き回っているのが測定器のデータから分かります。窓からも液体が動いた跡の渦のようなものが見えています。
まわりは、まぶしく光る溶けた金属が続きます。
地球の中には、こんな大きな液体の球があったのです。
この金属の海の中には、恐ろしく強い電流が流れているのが探検船にある測定機の針から分かります。いままで、これほど強い電流は、地球の中のどこにも流れていませんでした。
巨大な溶けた金属の球の中で、金属が動きまわり、そして強い電気も流れます。
この金属の球は、じつは巨大な発電機の役目をしているのです。
人類は、まだこのような巨大でしかも効率がいい発電機を発明していません。いや、どんなメカニズムで発電できるのか、その原理さえ分かっていないのです。
そしてまた、この発電機は地球の磁石の元でもあるのです。地球の磁石はこの発電機が作っている電磁石なのです。
つまり、世界一大きな発電機と、世界一大きな電磁石がここにあったのです。
第9節:探検船、地球の底へ
探検船は、さらに地球の中心に向かって進みます。
深度計は5100キロメートルを指しています。
また固体になりました。探検船の揺れがまた大きくなりました。探検船の旅も、あと2割を残すだけとなりました。あと1300キロメートルほどで地球の中心です。
これが地球探査の最後の部分です。
地球の中心にある内核(ないかく)といわれる鉄の球に入ったのです。
この内核は月よりもちょっと小さいだけの巨大な球です。でも、外核に比べると半分よりも少し小さいものです。
なぜ、液体の球の中に、また固体の球があるのでしょう。
圧力とは、今いる場所から上、地表までの岩の重さだという話をしました。内核のところまで来ると、上に乗っかっている岩の重さと、金属の重さは、すさまじいものになってきます。
このため、まわりの圧力があまりに強いので、液体ではいられなくなって、金属が固体になってしまうのです。
この圧力は、もちろん人間が作れる圧力ではありません。
このすごい圧力でぎゅうぎゅう押されて、鉄の体積が、半分くらいにも縮んでしまっています。外部の圧力を示す探検船の圧力計の目盛りが、フルスケールに近くなっているのが見えます。
探検船も潰れないかって?
確かに押されて小さくなっています。
大丈夫です。初めからその分を見込んで設計してあるのです。観測室や居住室が潰れて無くなってしまうほどではありません。
地球の上で私たちが見る鉄は、一辺が10センチのサイコロを作ると、その重さは8キログラムほどです。
しかし、外核や内核にある鉄では、同じ大きさのサイコロの重さは、正確に分かっているわけではありませんが、12キログラム以上、たぶん20キロにもなるのです。
つまり、この鉄は、同じ大きさのサイコロで比べると、地球の上で見る10.5キログラムの銀よりも、11キロの鉛よりも重くて、たぶん、19キロの金と 同じくらいにまで押し縮められているのです。もちろん、この深さまで金を持って行ったら、もっとずっと重くなります。
この恐ろしく重くなった鉄をかきわけて降りて行った探検船が、静かに止まりました。深度計は6380キロメートルを指しています。
ようやく地球の中心に着いたのです。
地球の表を出発してから、ここまでに百年経っています。
長い旅でした。
圧力は1平方センチあたり4000トンにもなります。恐ろしい圧力です。
地球の中に、これ以上圧力が高いところはありません。
温度は、詳しくは分かっていませんが、4000度から7000度くらいの間でしょう。
ところで、びっくりする話を聞かせましょうか。
じつは、いま探検船が通って来た外核も内核も、もともと地球にあったものではないのです。ですから、タイムマシンで、過去の地球の中を探検船が降りて行ったとしたら、この液体の球も、その中の固体の球も、見ることはなかったでしょう。
地球は生きて動いている星です。地震や火山が起きる地球の浅いところばかりではなく、こんな深いところも、じつは地球が進化して、いろいろ変わって来ているのです。
地球が46億年前に初めて作られたときは、じつは、太陽系が作られたときでもありました。地球だけではなく、太陽も、火星も、金星もいっしょに作られた のです。でも、そのときの地球は、宇宙に飛び回っていた大小さまざまの星のくずが次々に衝突して大きくなっていったものだったのです。火星やその他の惑星 も同じでした。
地球は、その後、この衝突で生まれた熱や、星くずに含まれていた放射性物質が出す熱でじわじわ温度が上がり、いったんは、全部が溶けてマグマの巨大な球になりました。
そして、星くずに含まれていた岩と金属がそれぞれ溶け、かき氷にかけたシロップが落ちていくように、岩よりも重い金属が地球の中のほうに沈んでいって、地球の中に液体の金属の球を作った、というわけなのです。
その後、地球は少しずつ冷え続け、いまに至ったのです。
皆さんが乗ってきた地球探検船の旅は、これで終わりです。現在の地球というものを、探検船の窓から大ざっぱに見ることが出来ました。
では、こんどは、地球の中のそれぞれの場所を、じっくり見て行きましょうか。
いままで、地球の中を見てきたような話をしてきました。
しかし人類は、まだ、この地球タマゴの中を実際に見たことはありません。タマゴの中どころか、タマゴの殻さえ突き抜けたことはないのです。
このため、地球科学者たちは、いろいろな方法を使って、地球の中を覗くことを試みています。
どんな方法を使うことによって、どんなものが見えてきたのでしょうか、まだ分かっていないことは何でしょうか、科学者はいま、どんなナゾに挑んでいるのでしょうか。
それを見て行くのが、この本です。
(イラストはこの本のためではありませんが、私の文章を講談社の雑誌『クオーク』に連載したときに、イラストレーターの奈和浩子さんに描いていただいたものを再録しました)
深度計は5100キロメートルを指しています。
また固体になりました。探検船の揺れがまた大きくなりました。探検船の旅も、あと2割を残すだけとなりました。あと1300キロメートルほどで地球の中心です。
これが地球探査の最後の部分です。
地球の中心にある内核(ないかく)といわれる鉄の球に入ったのです。
この内核は月よりもちょっと小さいだけの巨大な球です。でも、外核に比べると半分よりも少し小さいものです。
なぜ、液体の球の中に、また固体の球があるのでしょう。
圧力とは、今いる場所から上、地表までの岩の重さだという話をしました。内核のところまで来ると、上に乗っかっている岩の重さと、金属の重さは、すさまじいものになってきます。
このため、まわりの圧力があまりに強いので、液体ではいられなくなって、金属が固体になってしまうのです。
この圧力は、もちろん人間が作れる圧力ではありません。
このすごい圧力でぎゅうぎゅう押されて、鉄の体積が、半分くらいにも縮んでしまっています。外部の圧力を示す探検船の圧力計の目盛りが、フルスケールに近くなっているのが見えます。
探検船も潰れないかって?
確かに押されて小さくなっています。
大丈夫です。初めからその分を見込んで設計してあるのです。観測室や居住室が潰れて無くなってしまうほどではありません。
地球の上で私たちが見る鉄は、一辺が10センチのサイコロを作ると、その重さは8キログラムほどです。
しかし、外核や内核にある鉄では、同じ大きさのサイコロの重さは、正確に分かっているわけではありませんが、12キログラム以上、たぶん20キロにもなるのです。
つまり、この鉄は、同じ大きさのサイコロで比べると、地球の上で見る10.5キログラムの銀よりも、11キロの鉛よりも重くて、たぶん、19キロの金と 同じくらいにまで押し縮められているのです。もちろん、この深さまで金を持って行ったら、もっとずっと重くなります。
この恐ろしく重くなった鉄をかきわけて降りて行った探検船が、静かに止まりました。深度計は6380キロメートルを指しています。
ようやく地球の中心に着いたのです。
地球の表を出発してから、ここまでに百年経っています。
長い旅でした。
圧力は1平方センチあたり4000トンにもなります。恐ろしい圧力です。
地球の中に、これ以上圧力が高いところはありません。
温度は、詳しくは分かっていませんが、4000度から7000度くらいの間でしょう。
ところで、びっくりする話を聞かせましょうか。
じつは、いま探検船が通って来た外核も内核も、もともと地球にあったものではないのです。ですから、タイムマシンで、過去の地球の中を探検船が降りて行ったとしたら、この液体の球も、その中の固体の球も、見ることはなかったでしょう。
地球は生きて動いている星です。地震や火山が起きる地球の浅いところばかりではなく、こんな深いところも、じつは地球が進化して、いろいろ変わって来ているのです。
地球が46億年前に初めて作られたときは、じつは、太陽系が作られたときでもありました。地球だけではなく、太陽も、火星も、金星もいっしょに作られた のです。でも、そのときの地球は、宇宙に飛び回っていた大小さまざまの星のくずが次々に衝突して大きくなっていったものだったのです。火星やその他の惑星 も同じでした。
地球は、その後、この衝突で生まれた熱や、星くずに含まれていた放射性物質が出す熱でじわじわ温度が上がり、いったんは、全部が溶けてマグマの巨大な球になりました。
そして、星くずに含まれていた岩と金属がそれぞれ溶け、かき氷にかけたシロップが落ちていくように、岩よりも重い金属が地球の中のほうに沈んでいって、地球の中に液体の金属の球を作った、というわけなのです。
その後、地球は少しずつ冷え続け、いまに至ったのです。
皆さんが乗ってきた地球探検船の旅は、これで終わりです。現在の地球というものを、探検船の窓から大ざっぱに見ることが出来ました。
では、こんどは、地球の中のそれぞれの場所を、じっくり見て行きましょうか。
いままで、地球の中を見てきたような話をしてきました。
しかし人類は、まだ、この地球タマゴの中を実際に見たことはありません。タマゴの中どころか、タマゴの殻さえ突き抜けたことはないのです。
このため、地球科学者たちは、いろいろな方法を使って、地球の中を覗くことを試みています。
どんな方法を使うことによって、どんなものが見えてきたのでしょうか、まだ分かっていないことは何でしょうか、科学者はいま、どんなナゾに挑んでいるのでしょうか。
それを見て行くのが、この本です。
(イラストはこの本のためではありませんが、私の文章を講談社の雑誌『クオーク』に連載したときに、イラストレーターの奈和浩子さんに描いていただいたものを再録しました)
『教室ではおしえない 地球のはなし — 硬くない! 丸くない!』 島村英紀 (講談社)
第1章に一部加筆
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